ゴルフのスポーツモデルと言えばGTI。グリルの赤ラインと、シートの赤チェックがシンボル。

ところが、その上に「R32」というモデルが現れた頃から、「最速のゴルフは何か?」という立ち位置の混乱を唱えるファンも少なくなかった。

さらに、V6・3.2リッターという明らかに「違う」エンジンを積んだR32はまだしも、ゴルフVIにいたって「R」と名を変えたそれは、GTIと同じ2.0リッターターボというから、またぞろややこしいことになった。

だが、実はRとGTIは、同じスポーツモデルのようでいて、立ち位置にぶれがないのだ。以下は完全な受け売りですが、ゴルフの擁護のために書きます。

GTIはゴルフがいわゆるコンパクトカーだった頃からのスポーツモデル。後の「ボーイズレーサー」に規範となったモデルなのだ。早くてコンパクトな元気車。ゴルフが時代とともに大型化、あるいは肥大化を遂げて行くにつれ、若干あやふやなクルマになってしまったことは確か。だが、乗ってみればその軽快感は、サイズを感じさせない、ボーイズレーサーの系譜を感じさせる。

Rは、これは単純に時代の趨勢で「ダウンサイジング」せざるをえなくなったが、ゴルフのプレミアムモデルなのだ。実は本国ドイツでは、フォルクスワーゲンは「社用車」のニーズが大きいのだ。日本でも良くあることだが、何らかの理由でガイシャや特定のメーカーのクルマに乗ることがはばかられる立場の人がいるのである。そしてもう一点重要なこと。ドイツは大陸の一部であり、クルマでの移動が交通手段にしめるファクターとして大きい。山岳路や海岸線など、あらゆる路面状況に対応するためにゴルフRには四輪駆動、4 MOTIONが不可欠である。また、アウトバーンを持つドイツでは特に、「早く移動する」、「移動の時間を短縮する」ために、高速で走れるクルマが求められるというわけである。

つまりゴルフRは、「社用車でありながら高速性能が充実しているクルマ」として重用されるべく設計されたといえる。日本でも「部長がアリオンなのに課長がクラウンなどとはけしからん」というクソつまらんヒエラルキーがいまだにあるらしいが、ドイツでも無くはないようなのだ。ゴルフという、まあまあ地味とも言えるクルマならば、Rという多少ハデな見かけでも許してもらえるなんてことがあるらしい。その上、2.0リッターターボ+四輪駆動でカッ飛んで高速移動できる、「自動車版新幹線」のような用途が求められるのだ。

そう考えると、「実用性としての速さ」がゴルフR、「楽しみとしての速さ」がゴルフGTIと言えるのではないだろうか。

だが、時代の流れとともに受け入れられ方も変わってきたようで、ゴルフRも十分に「楽しみとしての速さ」と受け止められてきたふうでもある。やはりこの二台はクルマ好きとしては選択に悩ませられる対象であるようだ。