講談社青い鳥文庫「パスワードはひ・み・つ」の1995年版と2011年NEWバージョンの違いについて、とりあえず何度か両者を読み比べてみました。

まあ当然ですが、やっとWindows95が出たころの初版とでは、現代のITキーワードも全然違いますよね。初版では主人公マコトのつかう機器は、ワープロ専用機にアナログモデム。NEWバージョンでは当然PCで、すでに無線LANが引いてある設定です。

マコトの父親(ケーキ屋のオーナーパティシエ)はメカ好きで新しもの好き、という設定は変わりませんが、初版では「飽きっぽいので、買った機械はすぐマコトにお下がりとなる」ところ、NEWバージョンでは「父親が新しいPCに買い換えたため、お古がマコトに下がってきた」ことになっています。家に無線LANを引いてあるところを見ても、ITリテラシーに隔世の感あり。現代の父親像としてはこちらのほうがしっくりきます。

また、初版ではマコトが電子塾に入塾したときに専用の電話回線を引きますが、これはケーキ屋の電話がふさがっては困るから。そのためマコトの部屋に専用の電話機がありましたが、NEWバージョンでは前述のように無線LANありき、したがってマコトの部屋の電話機は子機ということになっています。さすがに小学生なので携帯電話は持っていないもよう。

電子塾というのは、実際にもあるインターネット上の学習塾のことです。が、1995年の時点ではそうとう新しいことのはずですよ。とはいえ、初版では懐かしのNIFTYフォーラムのおもむき。もちろん「パソコン通信」で、あつかえるのは文字だけです。NEWバージョンでは当然ウェブベースですな。細かいところではマコトのパスワードが変更になっていますが、たいしたことではありますまい。

ちなみにタイトルの「パスワードはひ・み・つ」とは、電子塾の中の息抜きとして開設された、ミステリーファン専門のフォーラム「電子探偵団」のパスワードのこと。相当なミステリーファンでなければ解けない難問を全問正解したものだけが教えてもらえる秘密のパスワード、ということです。このパスワードがあれば電子探偵団のチャットに入ることができ、そこで団長のネロとともに互いにミステリーにまつわるクイズ、パズルを出し合い、推理力を磨くというもの。ちなみに、作中で言うほどには試験はそれほど難問ではなく、現時点でもマコトはじめ5人しか全問正解者がいない、というのはかなり謎。また、秘密のパスワードそのものは作中でも明かされていませんが、ミステリーファンなら本作を読んでいくうちにわかるはず、です。

本題に戻って、IT関連以外での違いは、初版で主人公マコトおよび電子探偵団の仲間、飛鳥とダイの男子チームは、紅一点のみずきを「みずき姫」とハンドルネーム風に呼んでいたのが、NEWでは「みずき」になりました。また、みずきは「マコトくん」「飛鳥くん」などくん付けで呼んでいたのを、最初から敬称略に。これは2巻以降で互いに敬称略になっているため、さいしょから呼び方を統一したのでしょう。電子探偵団にはこののち、まどかという女の子が加わって5人になります。

また、作者の松原秀行さんが自ら明かしていたのが、1巻の11章でどうしても気になっていた部分を思い切って直した、とのことですが、正直どの部分かわからなかった。変化があった部分は、作中の地理的な記述なのですが、トリックに関わる部分でもなさそうなので、あまり重要とも思えず。

といったところで、時代を感じさせるキーワードをリニューアル、が改訂のおもなポイントなのですが、 そこだけ直したら、本編自体は少しも古くさくないことにうならされます。作中でも、シャーロック・ホームズをはじめ、ミステリーの名作は時代を経ても色あせない、という趣旨の記述がありますが、本作自体も時代を経てもおもしろさが失せないのがすばらしい。

さて、2巻以降も順次リニューアルされる予定があるそうですが、謎解きのキーとなるアイテムとしてポケベルが出てきたり、なつかしのザウルス的な電子手帳が出てきたりする初版、どのように改訂されるかが楽しみですなあ。