本日はお休み。先日、休日出勤したので代休であります。

で、Zepp Tokyoへ行った。

と言ってもコンサートに行ったわけではなくお芝居を観に。鈴井貴之プロジェクト「オーパーツ」の第1回公演「CUT」を観にいったわけさね。

宇梶剛士、田中要次が並ぶとギャング映画かと思うぜ。

生で見る鈴井貴之さんは思ったより背も高く、スラッとスタイルも良い。「水曜どうでしょう」を見てもそんな印象はないんですけど、実は大泉洋さんも身長180cm以上あるのでテレビではそうは見えないんですね。

その鈴井さん、実は北海道では伝説の演劇人だったそうで、はじめて見ますがそうとう素晴らしかった。

「10年前、上映たった1週間で打ち切られた映画があった。当時のプロデューサーが満を持してその映画のリメイクに取り組むのだが、さまざまな思惑がトラブルを生み、事態は最悪の方向に転がっていく・・・」という感じかしら。

その映画というのは、「両親を失った幼い兄妹が、親戚や養護施設になじめず逃亡し、両親との思い出に満ちた遊園地を目指す」というもの。全くヒットしなかったその映画のリメイクに固執するプロデューサーの思惑とは?

Zepp Tokyoで演劇というのも変わっているが、正直、そうした理由はわかりませんでした。劇場と違い客席がスロープになっていないので、ちょっと見づらい感じがしました。照明などの舞台装置を舞台美術として利用しているんだけど、「映画撮影の現場」というテイで話が進むのに、らしさが感じられない。ここはちゃんとした劇場で、舞台美術をきっちり組んでやった方が良かったんじゃ・・・

しかし芝居は面白かったです。宇梶さんはまあ正直なところ、めちゃくちゃうまい役者さんではないのだが存在感で引きつける。後半の繊細な芝居はもうひとつだったけど、ケレン味がありながら芯に純粋なものがある今回の役柄にはぴったりだったと思います。意外だったのは田中要次さん。ちょっとアイドルオタクっぽい脚本家で、かつてストーカー寸前にまであこがれたアイドル~今は女優~の主演作の脚本を書き浮かれるが、その偏愛が故にトラブルメーカーとなる。本人はそんなつもりがないのに、坂道を転げ落ちるように。要次さんのキャラじゃないんだけどキッチリ演じきっていた。この演技はうまいと思いました。

笑いも交えながら話は進んでいくのですけど、明らかに見る側の想像力が試されるように謎もちりばめられます。だからオーパーツなのか? まったく説明されないのでこちらで考えるしかありません。同じ「加藤」という名の二人の助監督がいて同じ場面に登場したりもするのですが、途中からこの二人は同じ人物なのではないか?と思わせるのですよ。加藤Aが怪我をしたはずなのにいつのまにか加藤Bのほうが包帯を巻いていたり、とか。この演出意図はわからないのだけど、スゴク怪しげな感じで面白かったです。

主演女優とマネージャーが実は兄妹で、彼らの目的が「奴らにつぐないをさせる」というものなんですけど、それが何なのかは最後まで明かされません。まるでスクリーンの兄妹が現実に抜け出してきたのか?と深読みしてしまうのです。主演女優は29歳なので10年前は19歳、年齢的にはマッチしないのですが。

そしてプロデューサーにも妹がいて、難病で亡くなっていたことも判明します。「10年前の映画」は彼女が生前に一番好きだったために、プロデューサーはリメイクにこだわるのです。

そう、この芝居は「兄妹」と言うキーワードをちりばめて反復しているのです。そのあたりに演出の狙いもあるように思えました。

映画監督としても名をはせた鈴井さんですから、その経験がこのような物語をつくらせたのでしょうか。おいら的にはヒジョーに共感できるお芝居でした。「難病ものが当たれば何度でもつくる、あとは人気コミックの映画化ばかり」というシンラツなセリフもまったく同意。スポンサーがやたら横やりを入れてきて、自社製品を無理に映させようとしたりとか、映画の現場を踏んできた人だからこそのピリカラなメッセージが満載です。おいらも昨今の「難病もの」ブームには辟易していて、むしろ実際に難病と闘っている人たちに失礼ではないのか?とも思うのです。この芝居でもプロデューサーはこれまで彼自身が「クソだ」という難病ものやコミック原作の映画化に取り組んできて、それはとりもなおさず難病の妹の医療費を稼ぐためという皮肉さ。妹亡き今、ほんとうに撮りたい映画を撮ろうと決め、それゆえにかつての失敗映画のリメイクにこだわるのです。

中盤から後半のテンポが落ちたのは気になりました。あのキャラクターとかこのキャラクターは要らなかったのでは?と思わせることも無関係ではないでしょう。おいらは「マグノリア」という映画が好きなのですが、それは様々な登場人物のそれぞれの葛藤を描きながら、まるで雪山の頂上から雪玉を転がしたら、だんだん肥大化しながらスピードと重量を増していき、誰にも止められなくなる、という展開がすばらしいのです。この舞台も、中盤からはジェットコースターのように展開が加速していけばもっと面白かったと思います。そのためには主要なドラマの軸をしぼっておけば良かったのでは。

しかし、もともとが面白い舞台だからこそ、惜しい点もあるわけで、これはオススメです。東京公演は今回が千秋楽だったのですが、大阪公演がこれから始まるので、ぜひ。